

運動生理学に多少でも興味のある人ならば、「スプリンターには速筋線維が多く、マラソン選手には遅筋線維が多い」ということを聞いたことがあるでしょう。
私たちの筋肉は、筋線維という細い筋細胞が何千本も束になってできているのですが、その筋線維には3種類あります。
そして、その3種類の筋線維はそれぞれ性質が異なり、それぞれの筋線維がどのくらいの比率で含まれているかで、筋肉の性質が決まります。
| 名前 | 別名 | スピード・出力 | 持久力 | 解糖系 | 酸化系 | 乳酸 | 色 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 速筋線維 | タイプIIx・FG | 大きい | 低い | 強い | 弱い | 蓄積しやすい | 白 |
| 速筋線維 (中間筋線維) |
タイプIIa・FOG | 中間 | 中間 | 強い | 強い | 中間 | ピンク |
| 遅筋線維 | タイプI・SO | 小さい | 高い | 弱い | 強い | 蓄積しにくい | 赤 |
このように3種類の筋線維はそれぞれ性質が違うのですが、その比率は人によって大きく異なります。
スプリンターは速筋線維の比率が高く、解糖系代謝が発達し、筋肉の出力が大きいものの、持久力に劣ります。
マラソン選手は遅筋線維の比率が高く、酸化系代謝が発達し、持久力に優れているものの、出力は小さいです。
この性質を乳酸の蓄積という面から考えてみましょう。
速筋線維は解糖系が発達している割に、酸化系が弱いため、乳酸を発生させやすく、蓄積しやすいという欠点を持っています。
しかし、速筋線維は、乳酸を出しながら糖を代謝することで急激にエネルギーを作っています。
酸素を利用せずに一気にエネルギーを爆破させる動きには最適なのです。
見方を変えると「乳酸を作り出すことのできる能力」が速筋線維にとって大切なのです。
遅筋線維は乳酸を発生させるとすぐに酸素を用いて酸化的に代謝します。
乳酸が蓄積しないので持久力に優れています。
蓄積すると疲労物質になる乳酸を、むしろエネルギー源として消費しますので、運動の効率に優れています。
それどころか、「乳酸はエネルギー源だ!」でも述べますが、速筋線維で発生した乳酸を受け取ってエネルギーとして利用することもできると、最近のスポーツ生理学では考えられています。
「乳酸を利用してエネルギーを作る能力」が遅筋線維にとって大切なのです。
ちなみにタイプIIaの中間筋線維は、解糖系も酸化系も発達していて、乳酸の発生量も多いのですが、それを消費するスピードも速く、速筋線維と遅筋線維の中間的な性質になっています。
現在分かっている限りでは、かなりの部分遺伝の影響を受けるようです。
しかし、トレーニングによってある程度筋線維の性質はある程度は変化する可能性がある、とは言われてます。
持久的な運動によって、速筋線維から中間線維への変化、つまりtype IIx→type IIaの変化が起こり得る、というのが一般的な見解です。
一方、筋トレやスプリントなどの瞬発的な運動で遅筋線維が中間線維や速筋線維に変化するか?ということについては、残念ながらノーのようです。
スプリンターには速筋線維の割合が高く、マラソンランナーはその逆だと言いましたが、トレーニングの結果そのような比率に変化したというよりも、元々持っていた身体特性に合った種目を選ぶ人が多く、結果的にそういう傾向になった可能性が高いと思われます。
どちらが重要かは競技によって異なります。
短距離競技では速筋、持久競技では遅筋が重要になります。
個人の中では、重力に対して長時間身体を支える筋肉、たとえば腹筋、背筋、首回り、ふくらばぎにある筋肉は、他の部位よりも遅筋線維の割合が多いです。
速筋線維と遅筋線維の割合は、個人差があるだけでなく、個人の中でも身体の場所で適材適所で異なるのです。
速筋線維そのものが増えるわけではありませんが、速筋線維のサイズが大きくなり、筋力が向上します。
速筋線維は筋トレによって太くなりやすい(断面積が大きくなりやすい)性質があります。
一方、遅筋線維は筋トレであまり太くなりません。
持久トレーニングを行うことで、遅筋線維は内部のミトコンドリアが増えて、持久力が強化されるようになります。