これまで、乳酸は疲労物質として考えられ、乳酸の蓄積にいいところは何もないと考えられてきました。ところが、近年のスポーツ生理学では、乳酸について全く新しい考え方が生まれています。
それは「乳酸は運動のエネルギー源だ」という考え方です。
バケツ理論で乳酸蓄積のメカニズムを説明してきましたが、実は乳酸の発生・蓄積はそれぞれの筋肉で別々に起こっているのではありません。バケツからバケツにひしゃくで水を移すように、乳酸の蓄積しやすい筋肉から、乳酸を消費しやすい筋肉へと、乳酸が移動しているのです!
「速筋線維と遅筋線維」で述べたように、解糖系が発達し、乳酸を発生・蓄積しやすい筋線維が速筋線維で、逆に解糖系が弱く、酸化系が発達し、乳酸を蓄積させにくい筋線維が遅筋線維です。速筋線維で発生した乳酸は、遅筋まで運ばれ、遅筋線維が乳酸を酸化代謝して、エネルギーを作り出します。
見方を変えると、速筋線維にとって乳酸は蓄積させたくない不用品で、遅筋線維にとって乳酸は酸化してエネルギーを作るためのエネルギー源ということになるのです。つまり乳酸を移動させることで、エネルギー源として有効活用しているのです。
この乳酸の移動と有効利用の理論は「乳酸シャトル」と呼ばれていて、現在では運動生理学の分野で有力な理論となっています。 トレーニングによって乳酸の移動の効率が高まることもわかっています。 ただ、どのようなトレーニングをすれば的確に乳酸移動の能力を高められるかは、今後の研究を待たなくてはなりません。