


朝のランニングか、夕方や夜のランニング、どっちが効果的だと思いますか?
そんな疑問に切り込んだスポーツ科学研究のエビデンスを紹介します!
この論文です。
Morning endurance training induces superior performance adaptations compared to afternoon training in mice.
アメリカのフロリダ大学のスポーツ科学の研究論文です。
まずはこの論文の結論をズバリ述べます!
持久トレーニングは、活動期の早い時間(=人間にとって朝)に行う方が、より少ないトレーニング量でも大きなパフォーマンス向上が得られる。
つまり、「朝練のほうが効果的」ということですね!
この研究では実験動物(マウス)を用いました。
マウスは夜行性なので、暗いときに活動し、明るいときに眠ります。
人間と逆なのでややこしいですが、ここからは話をシンプルにするために、朝と夕方を次のように定義します。
「朝=活動を開始する時間帯」
「夕方=活動を終える時間帯」
このように統一しますね。
さて、この研究の要点です。
普通、朝と夕方とで持久走のタイムはどちらが良いでしょうか?
たいていの場合は夕方だと思います。
起きたばかりだと、まだ身体があまり動きませんよね。
実際、この論文の実験でも、6週間のトレーニング期間を始める前は、活動時間帯後半,つまり人間でいうと夕方の方が,活動時間帯前半,つまり朝よりも明らかに長く走れています。
でも、6週間トレーニングさせると・・・
朝練したマウスの朝の持久走の成績と、夕方練したマウスの夕方の持久走の成績が同レベルになりました。
つまり、朝練マウスの方が、明らかにトレーニング効果が高かったのです!
もっと重要なのは、トレーニング強度は朝・夕方とも同じ強度(最大能力の70%)でやっているのに、朝トレの方が少ないトレーニング量で同じレベルに到達しているんです!!
これ、練習計画を立てていくうえでかなり重要ですね。
「朝にトレーニングするほうが効率よく強くなる可能性がある」ということを意味しています。
じゃあ何が変わっているのかというと、血糖や乳酸、筋グリコーゲンみたいな、よくある指標では差が出ていません。
つまり、エネルギー供給量の問題では説明できないということです。
代わりに見えてきたのが、筋肉の中の変化です。
特にCOXIVというミトコンドリアのタンパク質が、朝トレーニング群で増えています。
ただし、ミトコンドリアの量が増えたわけではなくて、機能に関わる部分が変わっている可能性が示されています。
ただし,この差は朝トレを始めたからといってすぐには結果が出ません。
3週間の時点ではまだ差がはっきりせず、6週間やって初めて「朝ランのパフォーマンスがが夕方ランに追いつく」という形で現れるんですね。
つまりこの論文から言えるのは、
トレーニング時間帯は「即効性のパフォーマンス」ではなく「長期的な適応効率」に影響する
ということです。
最後に、この研究はかなり慎重で、「なぜ起きるか」については断定していません。
ただし、著者は筋肉の体内時計(サーカディアンリズム)が関与している可能性を示唆しています。
ただしこれはあくまで仮説で、この論文内では直接証明されていません。
この研究から言えるのは
「限られた練習時間で持久力をアップさせたいなら、有酸素運動は朝の時間帯のほうが効率的な可能性がある」
ただ、この論文はマウスでの結果です。
この研究では人間で同じことが起きるかは検証されていません。
人間の寿命は80年くらいですが,マウスは長くて3年です。
なので,「6週間のトレーニング」という刺激の長さは人間とマウスとで違う可能性は高いです。
この論文から確実に言えるのは、「トレーニングの時間帯によって、同じ強度でも適応の効率が変わる可能性がある」という点です。
しかもそれは、血糖とか乳酸みたいな分かりやすい代謝的な指標では説明できません。
筋肉の中の適応の仕方が違う可能性がある、というところまで示されています。
じゃあこれを人間のトレーニングにどう使うか、という話をしましょう。
ここからはあくまで「合理的な仮説」として聞いてください。
まず考え方としては、「一番パフォーマンスが出る時間(=夕方)に練習するのが最適」とは限らない、ということです。
多くの選手は、体が動く夕方とか夜に質の高いトレーニングをやりたくなりますよね。
実際、その時間帯の方がタイムも出るし、心拍も反応も良く、追い込めますよね?
ただ、この論文を踏まえると、「その時間は『今の能力を発揮しやすい時間帯』であって、『一番伸びる時間帯』とは別かもしれない」という見方ができます。
あまり身体が動かない朝の時間帯で積み上げた方が、長期的には効率よく伸びる可能性があるということです。
普段は夕方にポイント練習をしている選手でも、あえて朝の時間帯に同じような有酸素トレーニングを入れてみる。
すると最初は夕方ほど動けないので「調子悪い?」と感じるかもしれません。
でも、この論文の結果を踏まえると、その状態でも同じ相対強度で継続していけば、適応効率が上がる可能性があるという見方ができます。
あともう一つ現場で使いやすいのは、「練習量を増やさずに強くなりたいとき」です。
この研究では、活動前半(=人間にとっての朝トレ)のグループはトレーニング量が少ないのに同じレベルまで伸びています。
これはそのまま、「時間帯を変えることでコスパのいいトレーニングができるかもしれない」というヒントになります。
例えば、疲労管理がシビアな選手や、練習時間が限られている社会人アスリートにとっては、「どの時間にやるか」は意外と大きな要素になり得ます。
ここは強調しておきたいんですが、この論文だけで「朝トレが最強」と結論づけるには疑問となる点もあります。
なぜかというと、この研究では
という制約があります。
特に最後の点は重要で、「試合の時間帯でのパフォーマンスがどうなるか」は分かっていません。
この研究で示されたのは,朝トレを続けると,朝のパフォーマンスが夕方並みになるということです。
本来なら、試合のある昼間のパフォーマンスを比較するべきなのですが、この論文ではなぜかそうしていません。
スポーツの現場で一番重要なのは「試合でのパフォーマンスが良い」ということですよね。
だから「朝トレをすれば必ず伸びる」と考えるのは少し早計かもしれません。
あと,この研究は持久トレーニングを対象としています。
筋力トレーニングや技術的な練習も,この結果のように朝トレが効率的になるのかどうかは調べられていません。
かなりシンプルに言うと、
「一番動ける時間=伸びる時間とは限らない」
「少しやりにくい時間帯のトレーニングが、長期的には効く可能性がある」
この2つが、この論文から現場に持っていける一番大きな示唆です。