


ロードバイクでヒルクライムを速くなりたいと思ったとき、まず思い浮かぶのは「脚を強くすること」ですよね。
実際、多くの人がインターバルや長時間の持久トレーニングに時間を使っています。
ただ一方で、こんな疑問を感じたことはないでしょうか?
「体幹トレーニングって、本当に効果あるの?」
「腕立てとか、ロードバイクに効くの?」
正直なところ、体幹や上半身のトレーニングはロードバイクに何となく大事そう・・・と言われることはあっても、科学的な根拠まで説明されることはあまりありません。
そこでこの論文です!
The predictive effect of well trained elite men road cyclists' anthropometry values and strength endurance on climb time trial performance
(十分に訓練されたエリート男性ロードサイクリストの身体測定値と筋持久力が、ヒルクライムタイムトライアルのパフォーマンスに及ぼす予測効果)
Esra Kurkcu Akgonul, Gokmen Ozen,Tarkan Havadar, Ali Co?kun, Metin Ozlu
Journal of Mens Health, 2025
この論文では、「身体測定値や上半身、下半身、体幹の筋持久力がロードバイクのヒルクライムの速さと本当に関係するのか?」を検証しています。
感覚ではない科学的根拠のあるトレーニングを考えたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
エリート男性ロードサイクリストでは、プランクとプッシュアップ(腕立て伏せ)の持久力がヒルクライムTTのパフォーマンスを有意に予測するが、体格(体重・体脂肪など)は予測因子にならなかった。
この研究では「ロードバイクで速い選手って、VO2maxとかLTとか、FTPといったメジャーな指標ではなく、それ以外のどんな体力要素を持っているのか?」を調べています。
対象はエリートのロード選手ですね。
しかも全員、かなりレベルが高い。
体脂肪も低いし、体格もだいたい似ています。
つまり、「そもそものレベルが高く、個人の能力差が小さい集団」を見ているわけです。
そのうえで、この選手たちにいくつかのテストをやらせています。
プランク、腕立て、懸垂、スクワット、バーベルカール。
いわゆる筋持久力系のテストですね。
で、そのあとに実際のヒルクライムのタイムトライアルをやらせています。
7.7kmで平均勾配6%くらいなので、だいたい20分ちょっとの、かなりきつい全力走です。
ここで、「どのテストの結果が、TTの速さと関係しているのか?」を統計的に見ている、という流れです。
で、結果なんですが、ここがこの論文の一番のポイントです。
ヒルクラTTの成績と統計的に有意な関係があったのは、プランクと腕立て、この2つだけなんですね。
プランクが長くできる選手、腕立てがたくさんできる選手ほど、
TTのタイムが速くて、平均速度も高い、という関係が出ています。
しかもこれ、ただの「なんとなく関係ある」ではなくて、
ある程度「タイムまで予測できる」レベルの強さで関係が出ています。
一方で、ちょっと意外なのがここです。
スクワットとか、懸垂とか、バーベルカール。
いわゆる「筋力トレーニングっぽい種目」は、全部有意な関係が出ていません。
つまり、この研究の中では、「脚や上腕の筋持久力は、TTの速さを説明しなかった」という結果になっています。
それから体格の話。
身長とか体重とか体脂肪率とか、そういういわゆる「フィジカルのベース」になる指標も、
今回のデータではTTのパフォーマンスを説明できませんでした。
これ、普通に考えるとちょっと意外ですよね。
特にヒルクライムだと体重は効きそうなイメージがあります。
ただ、この研究では対象がエリートで、しかも体格がかなり揃っているので、
その範囲の中では差が出なかった、という結果になったのではないでしょうか・・・
じゃあ、なんでプランクと腕立てなのか、という話なんですが、
論文の中では「体幹と上半身の役割」に注目しています。
プランクは体幹トレーニングの代名詞とも言えるものですね。
プランクの持続時間で体幹の持久力を表しています。
体幹って何をしているかというと、脚で生み出した力を上半身に伝えたり、逆に上半身の安定を保ったり、
いわば「力の通り道」みたいな役割をしています。
ヒルクライムって、ただ脚で踏めばいいわけじゃなくて、
体全体で安定してパワーを出し続ける必要がありますよね。
そう考えると、体幹が強い選手のほうが、
効率よく力を伝えられて、結果としてパフォーマンスが高くなる、という解釈になります。
腕立ても同じ流れで説明されています。
腕立てで使うのは、胸とか肩とか腕の筋肉ですが、
これらはハンドルを支えたり、バイクをコントロールしたりする役割があります。
特に登りでは、上半身の安定が崩れるとペダリングにも影響が出るので、
このあたりの筋持久力がパフォーマンスと関係している可能性がある、という説明です。
一方で、スクワットなどが関係しなかった点については、
論文でもはっきりした原因は断定していません。
ただし一つの説明として、
「エリート選手なので、脚の持久力はすでに全員高いレベルで揃っている」という可能性が挙げられています。
つまり、脚は全員が強いから差が出ない、ということですね。
あと、この研究の地味に大事なポイントとして、「フィールドテストを使っている」というのがあります。
室内のラボじゃなくて、実際のコースでTTをやっているので、
環境要因も含めた、より実戦に近いデータになっています。
そのぶん、ロードバイクのトレーニングへの応用という意味では価値があるデータだと言えます。
まとめると、この研究は、
「エリートレベルでは、体幹と上半身の筋持久力が、ヒルクライムTTのパフォーマンスと関連している」
ということを、フィールドのデータで示した研究、という位置づけになります。
この研究はすごく面白いんですが、いくつか気をつけて読みたいポイントもあります。
まず一番大きいのは、「パワーを測っていない」という点です。
ロードのTTパフォーマンスって、基本的にはどれだけパワーを出せるかがかなり重要な指標になりますよね。
でもこの研究では、実走のタイムと速度は取っているんですが、パワーメーターは使っていません。
なので、たとえば「プランクが強い選手は本当にパワーが高いのか?」とか、「筋持久力と出力の関係がどうなっているのか」という部分は、このデータだけでは正確には分からないんです。
論文の中でも、この点ははっきりと限界として認めています。
次に、トレーニング背景が揃っていないという問題があります。
選手たちはエリートではあるんですが、「どれくらい筋トレをしているのか」とか、「どんなメニューをやっているのか」という情報が細かく管理されていません。
論文にも書かれているとおり、シーズン初期で、最近はあまり筋トレをやっていない状態ではあるんですが、それでも個人差は当然ありますよね。
そうすると、プランクや腕立ての成績が「単純な能力差」なのか、「たまたま最近やっていたかどうか」なのか、その切り分けができません。
それから、この研究は対象がかなり限定されています。
エリートの若い男性選手だけなんですよね。
つまり、女性選手とか、アマチュア選手とか、あるいはもっと年齢が上の層に対して、同じことが言えるかどうかは、この論文からは判断できません。
この点も論文の中で明確に制限として挙げられています。
あと、これは研究デザインそのものの話なんですが、この研究は「相関」を見ているだけです。
つまり、「関係がある」ということは分かるんですが、「原因かどうか」は分からないんですね。
例えば、プランクが強いからTTが速いのか、それともTTが速い選手が結果的に体幹も強いのか、この因果関係はこの研究では判断できません。
つまり、プランクをやりこめばヒルクライムで速くなるか?と言えばこの論文の結果だけでは断言はできないのです。
ここを勘違いすると、トレーニングにそのまま直結させてしまうリスクがあります。
最後に、パフォーマンスに影響する他の要素が含まれていない点もあります。
論文でも触れられているんですが、
こういった要因は分析に入っていません。
実際のTTって、こういう要素の影響もかなり大きいですよね。
なので、この研究の結果はあくまで「一部の要因を切り取ったもの」として理解する必要があります。
まとめると、この研究は「シンプルな指標とパフォーマンスの関係」を示した点に価値はあるんですが、
そのまま「これをやれば速くなる」と解釈するには、まだ情報が足りない、という位置づけになります。